天然ブリの産地が変わりつつある — 数字で見る、海の変化

天然ブリの産地が変わりつつある — 数字で見る、海の変化

2026年3月2日豊洲 Okawari鮮魚店

この冬、富山県氷見市で異例の事態が起きました。

毎年冬の風物詩として全国のニュースを賑わせる「ひみ寒ぶり宣言」。今季はそれが、出ませんでした。10年ぶりのことです。

豊漁だった前シーズンは69,351本が水揚げされましたが、今季は年明け以降の1日平均がわずか170本。豊漁年には1日1,000〜2,000本が揚がることを考えると、その差は歴然です。仕入れ値は前年の3〜4倍にまで高騰しました(北陸中日新聞、2025年12月)。

私たちも今冬、氷見の天然ブリをお届けすることができず、大変残念な思いをしました。

では、いったいブリに何が起きているのでしょうか。公開されている統計や専門家の報告をもとに、見えてきたことを整理してみます。


全国のブリ漁獲量 — 増えて、そして減り始めた

まず、日本全体の天然ブリ漁獲量の推移を見てみましょう。

水産庁の資源評価(2024年12月公表)によると、全国の漁獲量は2010年頃に急増し、2014年に約13.6万トンでピークを迎えました。しかしその後は減少に転じ、2023年は約11.4万トンとなっています。

資源の入り口にあたる「加入尾数」(新たに漁獲対象に加わる若い魚の数)も、2009〜2014年の1.6億〜2.1億尾という高水準から低下し、2023年には0.9億尾と、2003年以降で最も低い水準になりました。

全体のパイは、縮小に向かっています。


産地が動いている — 北海道の台頭と、従来産地の変化

全体の漁獲量が減るなかで、もうひとつ大きな変化が起きています。獲れる場所が変わっているのです。

北海道 — 30年で約20倍

1990年、北海道のブリ漁獲量はわずか502トンでした。当時の全国1位は長崎県で7,761トン。北海道はブリの産地としてほとんど存在感がありませんでした。

それが2021年には13,971トンとなり、全国1位に。2023年、2024年と1万トンを超える水揚げが続き、2年連続で全国トップの座を維持しています(水産新聞)。日本経済新聞(2025年7月)は「北海道の漁獲量10年で倍増、サケやサンマ抜く」と報じました。

北海道でブリがサケやサンマより多く獲れる — そんな時代が来ているのです。

長崎県 — トップ産地も4割減

一方、長年にわたり天然ブリの漁獲量全国1位を誇ってきた長崎県はどうでしょうか。

2017年には18,197トン(全国シェア15.5%)でしたが、2022年には10,775トン(同11.6%)と、わずか5年間で約4割減少しています(農林水産省統計)。全国1位の座は維持しているものの、北海道が急速に迫っています。

氷見 — 10年で4分の1に

冒頭で触れた氷見ブリも同様の傾向です。2021年の漁獲量は10年前の約4分の1にまで減少していたことが報じられています(まなびチップス、農水省統計ベース)。

そして今季、過去最多だった2012年度の132,370本とは比べようもない状況のなか、ついに寒ぶり宣言が出されないまま冬が終わりました。

天然ブリをめぐる4つの変化

全国の漁獲量 ピークから減少へ -16% 13.6万t 2014年 11.4万t 2023年 長崎県 トップ産地も4割減 -41% 18,197t 2017年 10,775t 2022年 北海道 30年で約20倍に急増 x28倍 502t 1990年 13,971t 2021年 氷見(ひみ寒ぶり) 過去最多から半減 -48% 132,370本 2012年度 69,351本 2023年度 全国の漁獲量は減少 しかし産地の 「重心」が 北東へ移動 している (日本水産学会誌) 2024年度の氷見は 寒ぶり宣言が 出ないまま終了 1日平均170本(豊漁年: 1,000〜2,000本)

注: 各パネルは独立したスケールです。見つかったオープンソースでの単純比較であり、厳密な統計分析ではありません。

出典: 水産庁 資源評価 / 農林水産省統計 / きときとひみ公式 / 水産新聞


背景にあるもの — 海水温の変化

なぜ、ブリの産地はこれほどまでに変わったのでしょうか。

多くの専門家や公的機関が指摘しているのが、海水温の上昇です。

気象庁の公式データによると、日本近海の海面水温は100年あたり+1.33℃の割合で上昇しています。これは世界平均(+0.62℃/100年)の2倍以上にあたります。

2024年はとりわけ顕著で、年平均海面水温の平年差は+1.44℃と、1908年に統計を開始して以来、最も高い値を記録しました。気象庁は、2023年春から黒潮続流が三陸沖まで北上し続けたことや、対馬暖流の勢力が強かったことを要因として挙げています。

北海道周辺ではさらに極端な変化が起きています。根室沖や北海道南部沖では、海面水温が平年を6℃以上も上回る「海洋熱波」と呼ばれる現象が発生。通常は秋に獲れるブリが、2024年には7月から獲れ始めたと報じられています(UHB北海道文化放送)。


専門家はどう見ているか

水産庁は水産白書(令和4年版)のなかで、「海水温の上昇が主要因と考えられる現象として、北海道でのブリの豊漁やサワラの分布域の北上が継続して確認されている」と記しています。令和6年度の水産白書では、「海洋環境の変化による水産業への影響と対応」が特集テーマとして選ばれました。

学術研究の分野でも、日本水産学会誌に掲載された論文(宍道ほか)は、「我が国周辺の中緯度域の海面水温が上昇すると、ブリ類の漁獲量重心が北東方向へシフトする傾向が認められた」と報告しています。温暖な時期には北東へ、寒冷な時期には南西へ。ブリの「重心」が海の温度とともに動いているという指摘です。

氷見の不漁について、富山県は「秋田県から青森県沿岸にかけた日本海北部で、ブリが南下を始める水温より高い15℃以上の場所が広がっている」との見方を示しています(北國新聞)。水温が高いままだと、ブリは南へ下りてこないのです。


変わる海を見つめながら

私たちは鮮魚店として、毎日豊洲市場に立ち、魚と向き合っています。

ここ数年、市場の顔ぶれが少しずつ変わってきていることを肌で感じます。かつてはなかなか見かけなかった北海道のブリが増え、逆に、毎年当たり前のように並んでいた氷見の寒ブリに出会えない冬がある。

それは統計の数字が示す変化と、まさに重なっています。

私たちにできるのは、その時々に海が届けてくれる最良のものを、しっかりと目利きしてお届けすること。産地がどこであれ、旬の天然ブリのおいしさは変わりません。

変わりゆく海の姿を知ったうえで、旬の味わいを楽しんでいただけたら、うれしく思います。


参考資料

本記事の作成にあたり、以下の公的統計・報道・学術資料を参照しました。

  • 水産庁「資源評価(ブリ)」2024年12月公表
  • 農林水産省「海面漁業生産統計調査」各年版
  • 気象庁「海面水温の長期変化傾向(日本近海)」
  • 気象庁 臨時診断表「2024年の日本近海の年平均海面水温が過去最高を更新」2025年3月
  • 水産庁「令和4年度水産白書」「令和6年度水産白書」
  • 宍道弘敏ほか「漁獲量重心の変動からみたブリ類の漁獲量変動」日本水産学会誌 第80巻1号
  • 日本経済新聞、北陸中日新聞、北國新聞、水産新聞、UHB北海道文化放送 各報道

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